ワインはブドウの酒

熟成ワイン、酒精強化ワイン、ヌーボーなど、色々なワインの中に皆様の好みがあると思います。タイプこそ違え、ワインは全てブドウから作られたお酒。ワイン愛好家が、味や芸術性を追求するあまり、ワインはブドウという果物から作られることを忘れてしまいがちなのは皮肉なことです。
店長が駆け出しの1980年代の話です。十勝ワイン他、国内でのブドウやワインの生産に深く関わられた(故)岩野貞雄先生が、池袋のデパートの酒売り場でティスティングのご指導をされていたことがありました。何度か通ううちに、私の顔を覚えられ、あるときコメントを求められました。そのときは、3,500円くらいのCh. Cissacの古いヴィンテージと1,000円以下のオーストラリアの若いカベルネ。2種を飲んでの感想を、と。シサックはかなりひねた感じで、木の香りと熟成香、オーストラリアは正にアルコール入りのブドウジュース的な雰囲気。既にある程度ワインを飲んでいた私には、値段も頭に入れたうえで、当然シサックの熟成感に上級ワインとしての軍配をあげたのです。岩野先生、「君の評価は間違ってはいないが、これからワインの道に入るなら言っておこう。このシサックは熟成し過ぎているので果実味が失われていて、本当に美味しいと感じるかい?オーストラリアのほうは、ワインの完成度としてはまだまだだが、ブドウの、つまり果物の味がしないかい?」。当時、先生のお言葉に100%は納得できなかったのですが、何年か経ってから熟成したワインの中にもブドウの味を探すようになったのもこれがきっかけでした。先生の意図は、表現や蘊蓄よりも、自然に真正面からワインに対峙すれば、どんなワインにもその良さを発見できるということにあったと思います。高級ワイン、芸術的ワイン、希少価値のあるワインに敬意を払うことは当然ですが、全てのワインはブドウの酒であるという心を持ち続けていたいと思うのです。
未成年者(20歳未満)の飲酒は法律で禁じられています。